2023年度勉強会のご報告

2024.02.17/24

トラッキング作業

 トラッキングとは、出来事を構成するクライアントと他者のメッセージ(行動)の相互作用を一つひとつたどるようにクライアントから話を聞く、循環的質問法の一つです。ポイントは「最初から、順番に」と「具体的に」です。

 トラッキングすることで何がわかるのかというと、(1)問題とされる出来事を構成する具体的な行為と意味と、(2)問題とされる出来事を構成するコミュニケーション・パターンです。

 (1)の具体的な行為と意味は、この後のリフレクション作業の検討材料となります。(2)のパターンは、クライアントが抜け出せなくなっている自分と他者とのメッセージの絡み合いを「はあはあ、こんな感じでぐるぐるしているんだ」と理解するのに役立ちます。どちらも、何がどうなっているのか、理屈がわかれば対処がしやすくなる、というクライアントの解決力を引き出すことに繋がります。さらに、自身の体験を人に話すということ事態、論理的な説明を求められるため、その場で体験した時とは違う考察が働きます。

 トラッキングの質問メッセージ自体は、さほど難しいものではありません。普段から人に話を詳しく聞く時に使っているようなフレーズです。でも、面接相談中はこれがなかなか難しい。私もまだまだ意識して使っていかないと…と解説しながら反省していました。


2024.01.20/27

訴えを聞く

 変容手順の最初はクライアントの訴えをできるだけ聞き取ることです。クライアントとは問題を解決しようと努力を続けている人です。クライアントの訴えの中には、これまでの解決努力が多分に含まれています。問題の語りは解決努力の語りです。

 訴えを聞くことによって、支援者はクライアントの現実構成規則のヒントを受け取っていきます。現実構成規則は他者とのメッセージのやり取りの中、つまり社会生活を重ねることで生成します。いったん生成した規則は意味構成や行為選択に強く働きかけます。問題状況が続く背景には、絶えず変容するはずの規則がうまく変わらなくなってしまった、自他ともに「そうせざるをえない」「そうにしか思えない」状態になったと仮説立てることができます。

 今回はクライアントの訴えをもとに、意味と行為の選択のコンテキストとしてどのような規則が影響しているのか、分析する練習を行いました。


2023.12.16/23

変容手順

 後期の後半は、変容手順にそって面接相談を進める方法について学んでいきます。

 リプルで学ぶ包括的な対人支援論、ミニマリストソーシャルワークは、解決志向的なアプローチです。なので、相談に来られた方の問題とされる状況が少しでも変容するような方向性をもって、クライアントとのやりとりを進めます。

 どんな方法論にも基盤となる考え方があります。その考え方によって、問題の捉え方、解決の捉え方が異なります。この勉強会では問題も解決も”実在”ではなく”構成”するものとする考え方を採用しています。問題があるではなく、問題になるであり、解決があるのではなく、解決になる、という理解です。

 そうした考え方が基盤となっているので、変容手順に含まれる作業や具体的な支援者のメッセージも、クライアントとの間でどうやって”解決”を構成する相互作用をするか、がカギとなっています。

 練習では、支援者が陥りやすい場面をもとに何が起こったのか、どうする方法が考えられるか、ディスカッションしました。


2023.11.18/25

コミュニケーション・システムの分析(2)

 リプルで学んでいる包括的対人支援論はシステム理論をベースとしています。システム理論は世の中の事象を要素と構造を持ち、要素間の相互作用によって特有の機能をするシステムとして考える理論です。対人支援の現場では、クライアントと他者との関係を問題を生成したり、解決を生成したりするシステムとして想定してます。

 システムは相互作用によって特有の機能を持ちますが、人間のコミュニケーションシステムの特有の機能は、現実をつくることです。「今日はうまくいった」「ちょっと最近さみしい」など私たちは生活をしながら自分の生きている世界が〇〇だと定義しています。この材料になっているのが他者との相互作用です。

 前置きが長くなりましたが、今回はこの自他のコミュニケーションのパターンを分析する練習を行いました。自分のメッセージが他者のメッセージの引き金になり、他者のメッセージが自分のメッセージの引き金になる…この拘束性を意味づけと行為選択のルールから読み解いていきます。「勉強になる~」という感想もあれば、「難しい~」という感想もある、熱のこもった回でした。


2023.10.21/28

コミュニケーション・システムの分析(1)

 後期では、より実践的な理論と技法を学んでいこうと思っています。

 まずはコミュニケーションの分析方法をやっていこう!と始めたのですが、さらっと聞けば、なんだかわかるような気がすることも、突き詰めていくとわけがわからなくなる…という。

 というのも、私たちは普段特に深く考えることもなく、コミュニケーションをとっているので、1つ1つ分解されて、こうなってこうなってますよね?と改めて確認されると、うん?そうだっけ?と戸惑うことになります。これは大変大事な感覚で、実は相談場面でクライアントにそう感じてもらいたいのです。

 日常の生活場面はサーッと流れていて、私たちは自動的に相手の行為や自分の行為に反応しています。「こう思えば良かった」や「こうすれば良かった」と思うのはたいてい後からゆっくり考えた時です。ものごとの工夫を行う時にはじっくり観察し、検討するのが良い方法です。コミュニケーション分析では、クライアントと他者のコミュニケーションを一旦止めて、じっくり見る作業です。

 練習では、「昼夜逆転で生活リズムが乱れている」クライアント設定でロールプレイを行いました。「もっとめちゃくちゃに崩せば良かった」という感想に、お人柄が表れていてほほえましかったです。


2023.09.16/30

<実践編>

介入作業

 前期の締めくくりとなる第6回では、相談を展開させる支援者側のプラン、差異化を促す質問のプラン、について学びました。オープニングからトラッキングまでの手順は比較的一本道というか、誰でもいつでもどんな訴えでもという感じがあるのですが、リフレクションの作業になってくると、どんなルートで、どんな質問メッセージで展開させていくかは人それぞれですし、クライアントの反応にもよってくるので、「この質問を使えばこれが出てくる」という言い方はできません。なので「いろんな方法はあるが、自分がやっていける方法でやる」ことが重要となります。(以前、加茂先生が介入作業を外科の開腹手術に例えられたことがあります。腹を切って開けて、その後のやり方を考えてない、できないはないだろうと。)私たちは、打てる手を増やし、磨くことが求められています。

 今回は短い練習事例で考えてみることにしました。(いつも分量が多すぎて2時間の勉強会なのに情報過多だと言われている。)クライアントが求めているのは「不安をどうにかしたい」です。

 参加者の皆さんからは「文字になっていると何が何だかわからないけど、しゃべり言葉ならこれでも全然いける。いかに普段わかったような気で会話をしているかが、よくわかった」「支援者の質問にクライアントが取り組むためにも、コンプリメントが大切だと思った」といったご意見がありました。


2023.08.19/26

<実践編>

3.リフレクション

 第5回は電話相談の事例を使って、リフレクションの段階を考えていきました。

 リフレクションとは、クライアントが自身の行為選択や他者のメッセージの意味について、改めて吟味するよう促す、クライアントの考察を励ます段階です。改めて考え直してみたり、思い返してみたりすることで、クライアントはそれまで「こうだ」「こうするしかない」と思い固めていた意味や行為選択、出来事(結果)や関係性の捉え方にちょっとした可能性、「もしかしたらこういうことだったのかもしれない」「もしかしたらこうすることもできたかもしれない」に気づきます。もっと言えば、リフレクションを促される以前から、クライアント自身で「ああだったかも」「こうすればよかったかも」と考えてきていたことを、支援者に話すという行動によって具現化することができます。こうして生まれた「差異」がクライアントの解決生成の種になります。支援者にはクライアントの考察を促し、記述された種を貴重なアイデアとして活用していくことが求められます。

 参加者の皆さんには事例の内容からトラッキング・データを読み取り、クライアントの考察をどう促していくか、クライアントにどのようなコンプリメントのメッセージを伝えるかなどをディスカッションしました。事例ではリフレクションを促す最初の質問を「あなたの言ったことを、家族はどう思ったとあなたは思ったか」という循環的質問法にしていましたが、皆さんの意見を聞いて、ああその方法もあるかとすごく勉強になりました。


2023.07.15/22

<実践編>

0.オープニングから1.トラッキング

 第4回は、変容手順の0.オープニングから、1.トラッキングまでの内容を使って、家族のサブシステム(二者間)の相互作用分析をやってみました。その分析をもとにどのように考えて、面接を展開させるか、つまりどのような質問メッセージを連用していくか、ディスカッションしました。

 家族のサブシステムの相互作用分析では、それぞれの家族定義や関係性定義、出来事定義などのアイデアが出ました。例えば、親子関係をどうアセスメントするのかもこの時点の情報では意見がバラバラでした。

 トラッキングの段階で重要なのは、支援者のアセスメントの正否を確認するための質問をしていくというより、クライアントの記述を相互作用の分析枠に入れ、クライアントが問題場面とした出来事を自分と他者のメッセージが連鎖することで作られた「一連の形」にして、それをクライアントに考察材料として示すための質問をしていくことです。

 さて、次回はトラッキングの次のリフレクション段階になるわけですが、そこに向けて、参加者の皆さんの「私はここから行こうと思った」「私はこういう段取りでやってみるのはどうかと思った」という意見を聞くのはすごくおもしろかったです。


2023.06.17/24

<基礎理論編>

変容手順

 第3回は、相談支援の展開の仕方、変容手順を学びました。変容手順については、まだ確定されているわけではなく、難易度に応じて6段階になったり、4段階になったりしているのですが、今回は以下の5段階で説明しました。

0.オープニング、

1.トラッキング

2.リフレクション

4.解決行動のプランニング

5.チャレンジの支援

 内容に入る前に、皆さんには「変化」と「変容」の違いを言葉にしてもらいました。そうしてみると、説明する側の言葉の理解と聞く側の言葉の理解が同じとは限らないこと、聞いている者同士でも同じように捉えているとは限らないことがよくわかりました。さらには、それぞれの理解はどちらが正しくて、どちらが間違っているということでもなく、辞書的な意味が全てではないことにもつながり、言語メッセージに対する理解を深めることが重要だという話になりました。

 支援者のメッセージをどのように使っていくかについては、変容手順を意識して進めた事例の逐語を読み、具体例を見ていただきました。


2023.05.20/27

<基礎理論編>

分析枠を使って事例を読む

 第2回は「二者間の相互作用システム」の枠組みを使って、実際にクライアントの記述から考察する演習を行いました。

 普段の何気ない会話をもとに、クライアント→他者→クライアント→他者…というメッセージのトラッキング・データを作成。またクライアントの状況に関する情報を参考に「自己イメージ」や「自他の関係性定義」「行為選択のルール」の分析を行いました。

 参加者からは「クライアントが〝相手にこう言われると自分は何も言えなくなる”ということはあったが、それを行為選択の予測やルールとして考えたことはなかった」「確かに困った時にどうするかというパターンはあると思うし、それを検討する機会はこういう相談場面のような特殊な所じゃないと無いと思う」というご意見が出ました。

 こうした考察をもとに、次は変容に向けて何をどう考えていくか、支援者のメッセージを検討します。


2023.04.15/22

<基礎理論編>

二者間のコミュニケーション分析

 今年度の第1回は、人が生活する中でどのように問題が定義づけられ、行動の変容が難しくなるのかを理解する理論的土台、「二者間の相互作用システム」から始めました。

 私たちがふだんやっていることをものすごく単純にすれば、見聞きしたメッセージを意味づけ、次の行為を選択し、実行し、結果を受け取り、意味づけ、次の行為を選択し…、の繰り返しと言えます。この相手のメッセージと自分のメッセージの関係は、自己イメージを生み、他者イメージを生み、出来事を評価し、人間関係を作ります。それらは既存の相手のメッセージの予測に使われるだけでなく、未知の相手や出来事の予測にも影響していきます。

 また置かれた時代や社会、文化、教育の影響は日常生活場面で他者との間で無数に積み上げられる相互作用から意味づけや行為選択のルールとして取り込まれ、1つ1つのメッセージや出来事の意味づけや行為選択の文脈となって働いています。

 このように支援者が普段「問題」「問題行動」として認識しているクライアントの状況は、クライアントと他者のメッセージの相互作用システムとして、理解することができます。「問題とされる状況」を相互作用システムの枠組みに入れ、先行する規則や選択された行為、具体的なメッセージ、立てられた予測、と項目ごとに分析されることで、生成のメカニズムと変容可能な複数のポイントがあることがわかります。

 二者間の相互作用システムを「問題とされる状況」の分析枠として理解することで、クライアントの訴えや記述が状況変容の材料として使える!状況が変容できる!と私たち支援者が自信を持つことができると思います。