包括的対人支援論について、継続的に学ぶ方法      → 『ファミリー・ソーシャルワークの理論と技法』の連続読書会 開催!

第25回 2017年3月4日(土)14:00~16:00 @リプル

 今回は、前半講義の続き、後半事例検討でがんばりました(先生が)。

 講義ですが、変容点をCLに探ってもらう方法について、循環的質問法を使った差異化の解説の続きをしていただきました。

(1)言語メッセージ、非言語メッセージの差異化

 例)「この時、あなたはなんとおっしゃったのですか?」(言語)

   「この時、あなたはどのように話されたのでしょう?」(非言語)

   「相手はなんて言ったの?」(言語)

   「相手はどんな態度だったの?」(非言語)

(2)相手の言語メッセージの意味づけ、非言語メッセージの意味づけの差異化

 例)「そう言われて、どう思われたんですか?」(言語の意味づけ)

   「そんな言い方されて、どう思ったの?」(非言語の意味づけ)

   「その言葉からどんなことを感じたんですか?」(言語の意味づけ)

   「相手の態度はどういう意味だと思ったんですか?」(非言語の意味づけ)

(3)自分の行為選択の結果への期待

 例)「この後、どうしてほしかったんですか?」(相手の行為選択への期待)

   「こうすることでどう思われたかった?」(自分の行為に対する相手の意味づけ

    への期待)

   「こうしたらどうなると思ったの?」(自分の行為の結果への期待)

   「相手にどんなことをわかってほしかったの?」

 

 ちょっと例を挙げてみましたが、このように(1)行為、(2)意味づけ、(3)期待と項目ごとに、言語・非言語と聞くことができます。また、自分と相手と聞くことができるので、3×2×2で、これだけでも12通りあることになります。

 12個聞けるけど、12個のうちどれを選ぶかは、FSWの責任です。①CLの言語行為を差異化して、②セリフによる相手の意味づけと行為選択を差異化して、③自分の言語行為の

違いが相手の行為の違いを引き出すことを意識してもらった上で、どうするかを決めてもらおう、くらいの作戦が立てれたら…。

 後半の事例検討は、子どもさんを解決主体にする作戦を練りました。

第24回 2017年2月4日(土)14:00~16:00 @リプル

(すみません。ついうっかりご報告を忘れていました。)

 さて、トラッキングデータを使った変容方法の続きです。

 トラッキングにより、問題場面はCLと他者との行為の連鎖の形で表されています。自分の行為が相手の行為選択の文脈となって働き、相手の行為が自分の行為選択の文脈となったことを、CLはFSWの質問に導かれて、自分で話しながら、確認していきます。

 この過程は、CLにこの連鎖のどこか1つでも変わったら、その後の展開が変わるということを意識させる過程でもあります。なので、丁寧に、慌てずに、進めて行くことがポイントになります。CLが「この中のどこか1つでも変わったら、状況が変わる」と思って問題状況を見始めたら、次はどの”どこか1つ”の”どこか”を決める作業です。

 この時、CLがかなりはっきり”どこか”に気づいていることがあります。自分でも、自分の言った言葉や言い方、態度などが問題だったと思っているような場合です。また、逆に相手の言葉や言い方、態度などが原因と思っている場合もあります。こういう場合、「改めてふり返ってみて、何か気づかれたことはありますか?」などと促すと、「やっぱりここですよね」と決まることがあります。

 しかし、トラッキングだけではまだCLが選択できないことがあります。FSWは「ここかな」と思っていたりします。これは勘でそう思うというような話ではなく、コミュニケーションパターンの分析を同時進行で行っているから、という話です。この場合、CLがどこを変容させるか考察できるよう、FSWはトラッキングデータを基に循環的質問法を使って、差異化を行っていきます。

 差異化するのは、(1)発話行為の言語メッセージ、非言語メッセージ、(2)相手の言語メッセージに対する意味づけ、非言語メッセージに対する意味づけ、(3)自分の行為選択の結果への期待です。(ちょっと長くなりました。25回に続きます。)

第23回 2017年1月5日(土)14:00~16:00 @リプル

 テキストの事例でFSWはCLのメッセージをもう一度繰り返します。例えば、CLが「登校時間が迫っていたので、“何をしているの。早く準備しないと遅れるよ”と言いました」と言った後、「時間がないので、”何をしているの。早く準備を…”とおっしゃった」という具合です。しかし、これはいわゆる「繰り返し」の技法ではありません。

 今回加茂先生が強調されたのは、FSW側の構えです。ただ単にCLが言ったことを言ったように繰り返すのではなく、「CLのメッセージから変容可能な要素を浮上させるぞ」という構えで、CLの言ったことを変容の文脈にするために繰り返すのです。先ほどの例の場合、FSWはCLに、CL自身が問題とした場面での自身の行為の文脈と選択実行した行為の連鎖を意識させることを意図します。つまり、「時間がせまっていた」から子どもが遅れてしまわないように心配して「早く準備をと言った」という、文脈と行為、それからその結果の結びつきにCLが気づくよう持って行きたいわけです。「思いは悪くなかった。ただそれを伝える伝え方、選んだセリフや言い方が良くなかったので、相手に心配は伝わらず、別の意味で伝わってしまった」となれば、「セリフや言い方を変えればいい」ということになります。CL自身が解決の手立てを思い描けるよう、FSWは明確な意図を持ってCLのメッセージを繰り返し、CLが自身の問題領域を細かく見直せるよう、思考を導くわけです。これは循環的質問法のカテゴリーでいうと、TCaの質問になります。

 CLにしっかり考えてもらうためには、溜めがポイントになります。記号で言えば「…」の部分です。ちょっとその場でやってみたのですが、なかなかいい感じにできたと思います。多分。(中)

第22回 2016年12月3日(土)14:00~16:00 @リプル

 本日のテーマは「トラッキングとその変容」。トラッキングの作業が変容の生成に対し、どのように機能しているか、理解を深めていきました。

 トラッキングはCLの訴えを現実生成の構成要素に分解し、要素間の結合を明らかにする方法で、支援者にとっては具体的な場面の情報が得られるだけでなく、先行する規則のアセスメントができるという優れものです。

 さらに、CLが自身の体験を説明するという面も持っています。支援者に促されて、出来事を順番にたどる時、CLの思考は論理的になり、記述は正確に整合性を持った形になるよう構成されます。ここもミソです。

 CLは自分のした記述を土台にして、考察を深め、状況を変容させる新しいアイデアを明らかにしていくことができます。自分で解決を作っていけるという実感をもつことができるのです。(そのようにもっていかないといけないのですが)

 後半はロールプレイを行いました。あまり質問に答えてくれないCL設定でのロールプレイでしたが、「~の時は?、~の時は?」と分けて聞いたり、「いろんなことやっているんだね」とコンプリメント入れたり、「あなたの話を聞いていて、これは不安うんぬんの話じゃなくて、この時間をどう過ごすかということなんじゃないかと思ったんだけど、この思いつきは変かな?」とルートを切り開いたりするうちに、CLの記述が変わってくるのがおもしろかったです。

 次回はリフレクションです。正直、質問メッセージを自由自在に操れるようになったら、できることがものすごく増えると思います。人のやり方は本当に参考になります。

第21回 2016年11月5日(土)14:00~16:00 @リプル

 今月から、変容手順を段階的に練習して行きます。

 「このやり方はJAZZだ」

 これが今日のキーワードになりました。加茂先生が表現したかったのは、演歌のように重々しくうなることなく、軽やかに変調していく方法だからということのようです。確かにCLとのセッションで、相手に合わせて即興で進めていくところなんかは言い得て妙な感じです。しかし、えらいおしゃれだなと。(笑)

 改めて、ファミリー・ソーシャルワークの理論の巧妙さに感心したのは、CLを解決主体にする仕組みが何重にも含まれているところです。CLが順番に語る、ただそれだけのことによって、CLにも「一つの行為が変わったら、状況が動く」ということがわかるし、その枠組みで日常生活を見るようになるというくだりには思わず「おー」と声が出ました。

 また分解された構成要素のつながりからパターンを探る方法として、ベールズの分類が紹介されました。単純でわかりやすく使い勝手のいい分類法です。

 次回に向けて宿題も出ました。介入プランを考えてくるようにとのことです。カープの優勝パレードで浮かれた気分も一蹴されてしまいました。(中)


第20回 2016年10月1日(土)14:00~16:00 @リプル

 今日で第10章の事例を使った講義は最後となりました。次回からはこれまでの学びを活かして、トラッキング以降の手順を学んでいく予定です。

 さて、今回の話の始まりは「私たちの現実は局面ごとの行為である(でしかない)」というものでした。それをまとめ、意味づけ、ストーリーとするのには経験的に培われた意味づけと行為選択の規則が働きます。しかし私たちは普段、自分があるいは相手が、互いの規則に従って言語ゲームを展開しているとは思っていません。

 面接では、まとめられたストーリーをもとのバラバラの要素に分解し、その要素の一つについて、改めて検証を求め、それまでの規則と違いのある別の規則とその規則に基づく具体的な行動を生成するという作業を質問法を使って進めていきます。

 「しょせんはバラバラ」「局面ごとしかない」と知っておくことで、どんなストーリーが語られたとしても臆することなく、トラッキングへと向かえると思います。(中)


第19回 2016年9月3日(土)14:00~16:00 @リプル

写真を撮り忘れました。

 夏休み明けの少しぼんやりした頭には、やはり強烈な読書会。まずはこれまでの流れのおさらいから始めました。

 この事例の面接構造は局面ごとにⅠ本人面接、Ⅱ里親面接、Ⅲ合同面接と展開します。本人面接はさらに、①トラッキングによる変換点の限定、②行為レベルから関係性レベル、自己定義レベルと意味構成規則の上昇方向の変容(を目指した介入)、③CLによる解決行動のプラン策定、④③で生まれた解決プランのリフレクション、という過程をふんでいます。

 今回、加茂先生が重ねて強調されたのは、このように事例を学び直す意義は、こうした技法使用も含めた展開の仕方は、他のケースに対しても使えることがあるということです。(同型性)

 全く知らないことを実践中に行うことはできません。事例を学び、介入パターン、技法の連続使用のパターンをいくつか知ることは、実践中「どう展開しようか」と考えた時に、手持ちの方法の中から選ぶということを可能にします。

 後半は、Ⅱ里親面接における技法使用の解説でした。コンプリメントの後の技法使用が重要となりました。


第18回 2016年7月9日(土)14:00~16:00 @リプル

写真を撮り忘れました。

「もしこれが実現したらどうなる?」

 これは、テキストの事例でFSWが使ったミラクル・クエスチョンの後の質問です。CLは里親に怒られながらも宿題をやり遂げた出来事に対しても、里親と自分との関係性に対しても、否定的な意味づけを変えることができず、現実に対して「どうすることもできない」という思いを強めていました。

 FSWが行なった介入は、里親に叱られるというCLにとって一番嫌な場面の後で、宿題をやり遂げた出来事を浮上させて、里親の影響力に対するCLの意味づけや出来事定義を変えるというものでしたが、「(自分は)どうやっても里親の思い通りにされる」という関係性定義を変容させるまでには展開しませんでした。

 そこで、「思い通りにできたとしたら?」とミラクル・クエスチョンを使った介入に切り替えます。自分のしたいことを挙げてもらい、スケーリング・クエスチョンにより優先順位をつけ、差異化します。ここまでは「もし~したら」の夢の世界です。ミラクルを使う介入のポイントはこの後必ず具体的記述を求めることです。CLを自分が作ったミラクルに対して、メタポジションに立たせるのです。

 例えとしてディズニーランドの話が出たために、今回の読書会の参加者からは「もうこれで、ディズニーランドに行っても、夢だけ見ているわけにはいかない」という悲痛な感想が出ました。(中)


第17回 2016年6月4日(土)14:00~16:00 @リプル

 人間コミュニケーションでは、行動は物理的な体の動き(Act)ではなく、特有の意味を持った発話行為(Speech Act)であり、人間関係を遂行する手段です。

 しかし、どのような行動が何を意味するのかはその人の生活史とも関連する上に普遍的で厳密な規則があるわけではないので、実際のところ「よくわからん」わけです。「よくわからん」けど、何となくわかったようにやりとりしていて、「なんでこうなるんだろう?」「どうしてうまく通じないんだろう?」と怒ったり、悩んだりする状況が対人関係上の「問題」とされます。

 トラッキングは、行為の連鎖を時系列で追い、発話行為がどのようにつながっているかを明らかにします。「この行動で伝えたかったメッセージはこういうことだったが、相手はこう思ったかもしれない。」「改めて考えると、この行動の意味はこういうことだったかもしれない。」発話行為のつながりを再追跡する中で、考察のポイントとして、発話行為の一つひとつが浮かび上がってきます。

 今回、トラッキングの発想の元となるパンクチュエイションも話題となりました。介入手順として、トラッキングを用い、CLが「問題」とする状況の始まりと終わりを聞いた後、さらにその前後を聞くことで、CLがパンクチュエイトした、つまり「ここからここまでが問題の出来事です」と切り取った現実の枠組みをずらすことで、問題として括りきれなくする方法の効果が話し合われました。

 次回は、ミラクルクエスチョンにより展開した「思い通りになった場面」を使った介入についての分析に進みます。(多分)。(中)


第16回 2016年5月7日(土)14:00~16:00 @リプル

 久しぶりに参加してくださった方が多かった今回、加茂先生にお願いして、これまでの復習もかねて改めて支援論の土台となっている現実生成のメカニズムとCLが訴える問題とのつながり、なぜこの方法を使うと解決が生み出されるのかという点について、解説していただきました。

 重要なことは、排除されているものを浮かび上がらせることができるかどうかということ。これまでやったことがあるのに浮上してない出来事や行動、意味づけ、これまでやってもいい可能性があったのにやっていない行動や意味づけなど、CLが物語る中で語っていない部分に質問を投げかけ、CLに話してもらうことができるかどうかということです。

 というわけで、介入技法としてプランに合せて質問を展開させる腕が必要という話になりました。質問は単発で考えるのではなく、介入ルートに切り込む一つ目の質問に対するCLの答えがどうであっても展開できるように、二の矢、三の矢を用意し、着実にCLを解決へと導けるようにならなければ…。

 私の失敗話も聞いていただきながら、トラッキングまでの進め方も復習しました。(中)


第15回 2016年4月2日(土)14:00~16:00 @リプル

「いろいろやってみたけど変わらない」と言われることがあります。このメッセージからクライアント(以下CL)の意味の構成規則がみてとれます。「いろいろやってみた」は発話行為とエピソードのレベルです。「変わらない」というのはLife-Script(今回は人生談と訳されました)のレベルです。CLは現実に生じている微細な差を「変わらない」という枠に合うように取捨選択しているのです。

 そこでトラッキングです。「いろいろやった」の「いろいろ」について、具体的に話してもらうことで、差を浮き立たせるのです。それはCLを自身の行為を対象化して検証するポジションに置くことも意味します。CLから「やった」「やってみた」というエピソードが出るたびにトラッキングを使うことで偽解決を変容させることが可能になります。

 Slippery eel(スリッパリー・イール)とは“つかみどころのないウナギ”という意味です。CLの話をざっくり聞いていたのではつかめるものもつかめません。一つひとつ、その状況を構成する構成要素に分解し、つかんでいくことが変容作業のとっかかりとなります。


第14回 2016年3月5日(土)14:00~16:00 @リプル

 

きれいな字で書こうとしてくれる加茂先生

 

 

垂直方向と水平方向のフィードバックループのメカニズム


 今回は、変容生成論について意味構成と行為選択の「ルール」を題材に、改めてそのメカニズムの解説を受けました。

 私たちは①相手の行動に対する意味づけ、②その意味づけを基にした自身の行為の選択、③自分の行為の結果に対する意味づけ、その意味づけを基にした行為選択…を繰り返しています。意味づけるにしても、行動を選ぶにしても、その選択肢は多様に存在しますが、普通は最も一般的なものが採用されます。最も一般的とは、社会的に認められているものや採用頻度の多いものが当たります。それらは意味づけや行為選択の際「ルール」となって働き、選択に一定の方向性を持たせて目の前のコミュニケーションを進展させる一方、本来多様であるはずの意味づけや行為の選択肢の幅を狭める作用ももたらします。

 しかしこの「ルール」、相手から届く相手のルールに基づくメッセージを取り入れ、自身の意味づけと行為選択を検討する繰り返しの中で生成されるため、固定化することなく作り変えられていく特徴をもちます。これが介入により問題現状を変えられる理論的根拠となります。

 つまり、局面ごとに意味構成と行為選択に関すルールを、相手のメッセージを文脈に再構成しながら展開していく対人コミュニケーションの特徴から、ある一場面の行為連鎖のデータをもとに(1)意味構成のルールへの介入、(2)行為選択のルールへの介入を行うことが可能であり、原則的にはそのデータは自分と他者のメッセージの連鎖1回分、つまりフィードバックループ一回分でも可能ということになります。

 次にそれぞれの介入方法の解説です。トラッキングした場面は問題状況を表す典型例か最悪の例としてCLに選ばれた場面です。テキストの事例では、「自分が言っても父親は絶対に聞いてくれない」というのが典型例、「怒って叩かれる」というのが最悪例です。(2)の介入ルートを選択したなら、変容を引き出す方法として典型例や最悪例以外の、肯定的な結果となった例外事象を聞く方法があります。もし、例外事象があったら、その時と典型例、最悪例の差を明らかにし、自身の行為選択と相手の行為との関連を分析することから新たな行為選択ルールを生み出すことが可能となります。

 (1)の介入ルートを選択した場合は、典型例、最悪例として提示された場面を構成する否定的意味づけを取り上げることで差異化し、肯定的な枠組みで意味づけするリフレイムを行い、CLにリフレクションさせる質問をして、新たな意味構成ルールの生成を図る方法が考えられます。つまり、否定的な枠組みしか用意されていないCLの意味構成のルールに対し、FSWが肯定的な枠組みを新たに設け、そこに当てはめることが可能かどうかをCLに検討してもらうことで既存のルール以外の枠の存在に触れてもらうわけです。機能し始めれば、さらに質問を重ねることで、意味構成の上位レベルにまで般化させていくことが可能となります。テキストの事例では宿題を巡る親子の問題場面から、CLの「怒られて宿題をやった」というエピソードに対し、「そんな嫌な思いをした後でも最後まで宿題をやることができた」とリフレイムし、新しい意味づけの枠を作っています。

 今回のディスカッションでは、テキストのFSWの介入方法が決してうまく進んだだけではないことも指摘され、効果的な介入のためにはFSW自身の面接データの分析と具体的な質問メッセージをどうするかについての研鑽が必要なことが確認されました。

第13回 2016年2月20日(土)14:00~16:00 @リプル

 ミニマリスト・アプローチの意味は状況に変容を確実に起こしていくために、関わるところを焦点化して、できることからやっていくことにあります。社会をシステミックに捉えれば、どんな小さな行動でも、行動の1つの要素のわずかな変化でも、発生しさえすれば、それがシステム全体に波及することになります。ただし、その変化はCLが「変わった」「以前と違う」と言及することによって初めて現実化します。そのためリフレクションにより解決行動の結果の意味づけについて改めてCL自身の言葉で語っていただくことが重要なのです。

 今回の講義では、リフレクション作業に用いる質問をどのように組み立てていくか、テキストの事例を基に自分ならどうするか、循環的質問法の表を眺めながら、それぞれに考えました。一つのアイデアとして、自分の得意な展開ルートを開発するという意見が出て、それには行為の連鎖を聞く「TC」系統の質問が使えるようになるといいのでは…というところで落ち着きました。(中)


第12回 2016年1月9日(土)14:00~16:00 @リプル

 テキストの事例では「怒られた後、宿題を済ませた」というCLのエピソードを、FSWは”怒られたのに宿題をやり遂げた”とポジティブに意味づけの枠組みを変え(リフレイム)、自己定義の変容を図った(垂直方向の変容)。CLの反応によっては、新しく生じた自己定義を文脈として、家族と自分の関係性定義や新しい行為選択を引き出すことができる。この後はその可能性を探るような質問が展開していたと思われる。しかし…。

 以上は、この面接でFSWが何をしようとしたかということについての解説です。「相談を受ける」とはただ話を聞くことではありません。また助言や提案をすることでもありません。CLが自身の解決行動を明確にする支援を行うことです。そのために何をしたのか、説明できなければならないというのが今回のポイントになりました。質問技法の記号化はそれを容易にするためのアイデアということでしたが、難しい…。ひとまずは大きく2つに分けて覚えていきたいと思います。(中)


第11回 2015年12月5日(土)14:00~16:00 @リプル

 変容を生み出す方法論は2つ。一つは、自他の相互作用の中で作られた「相手の行為の意味づけのルール」と「行為選択のルール」を差異化し、既存のルールとは違うルールを再構成するというアイデア。

 もう一つは、行為自体に含まれる「言語メッセージ」と「非言語メッセージ」の出し方自体を差異化し、既存の行為とは違う行為を再構成するというアイデア、です。

 どちらの方法論を実行するにしても、その前にCLの記述を変容が生まれやすい形に加工しておく必要があります。それがトラッキングデータです。

 そのことを踏まえた上で、今回はテキストの事例にあるCLの1つのセリフから、その後の展開を考えました。そのセリフには「自己像」と「他者の行為の意味づけ」が含まれています。FSWはCLがどちらを選んでも展開していけるよう、登山ルートを準備した上で、CLにどちらを扱うか意見を聞きます。CLを自らの問題解決の主体から降ろさないためにも、自由度の高い質問メッセージの出し方をFSWは意識しなければなりません。

 ということを介入のデモンストレーションのロールプレイを見ながら、散々考えました。(中)


第10回 2015年11月7日(土)14:00〜16:00 @リプル

 今回からテキスト第10章の事例について、改めて丁寧に分析をしていくことになりました。特に支援者が問題を構成するどの要素に焦点を当て、どういうルートで変容させようとしたのかを、技法の記号化を用いてたどっていくことにしました。

 問題を構成する要素は対人関係の意味合いを含む言語行為です。ルートは大きく二つ。出来事の意味づけや自己イメージの変容などに関連するルート(垂直方向と呼んでいます)、行為選択に関連するルート(水平方向と呼んでいます)です。垂直方向に動かそうと思ったら、CCa系統の質問を使います。水平方向ならCD系統の質問になります。(難しい…。)

 どちらにしても大事なことは具体的な事象に降ろして作業をするということです。抽象度の高い話は変容することが困難です。

 テキストの事例を分析すると、FSWがある質問から垂直方向へと舵を切ったことがわかります。

 次回も分析を続けます。(中)


第9回 2015年10月3日(土)14:00~16:00 @リプル

 問「解決行動を立案するのは誰か」答え「クライアント」。問「なぜクライアントが立案することが重要なのか」答え…。皆さんはどう答えますか?

 私たちが今学んでいるファミリーソーシャルワークは因果関係による問題の理解や解決の探索を意識的にはずした方法です。CLは慣習的に行ってきたメッセージのやりとりに含まれる各要素の吟味を、支援者の質問に導かれる形で非常に細かく行っていきます。相談に来て自分の問題を記述する瞬間からCLは、自分も他者も物ごともごちゃごちゃに結びつけていた状態から、順番を考えたり、別の可能性について想像したり、その時の自分の思いを振り返ることで、自分や他者や物ごとを対象化してみる状態へと徐々に移行していきます。こうなればCLは自らの解決を自分自身で考えることができます。

 今回の勉強会では途中、事例検討も行われました。その中で、CLの既存のネガティブな世界観、自己像とは別のものを作り出しておいて、新しい世界観、自己像から具体的な行動を考えてもらう方法と効果についてディスカッションすることができました。実りは多かったですが、例によって資料の方はさっぱり前に進みませんでした。(中)


第8回 2015年9月19日(土)14:00~16:00 @リプル

写真 (撮り忘れました)

 夏休み(?)で8月をお休みした読書会。久しぶりに脳みそがフル回転する内容になりました。

 今回、加茂先生から提示されたのは「地図と領土」、「加工(人工)度」という概念です。

 面接の目的は、CL自身の問題を解決する具体的な行動を引き出すことです。支援者は、CLの記述が最終的にはある一つの小さな具体的な行動に狭められるよう、うまく質問を積み重ねていく必要があります。CLが「これをやります」と言えるように質問を選択していくわけです。しかし「これ」が何になるのかを、あらかじめ予測したり、コントロールしたりすることはできません。

 また「これをします」というCLの記述は、ある目的を達成させるために作り出された非常に加工度の高い特殊なものです。言ってみれば「地図」のようなものです。紙の上に描かれた地図と実際の土地が違うように、加工度の高い実践プランと、現実の生活場面で実践することには、大きな違いがあります。

 講義を聞いていると当たり前だと思う話なのですが、CLが「やる」と言ったことは「やれるはず」のこととして、次回の面接に臨んでいる自分の姿を思いだし、ドキッとしました。(中)


第7回 2015年7月4日(土) 14:00~16:00 @リプル

 前々回あたりから、支援者の役割を登山ガイドに例えて理解を深めています。

 山の地図(問題生成の構造や力学)を頭に入れ、登山ルート(介入プラン)を選択し、ガイド(質問を重層的に組み立てて面接を展開)しながら、頂上(CLが解決行動を作り実践する)まで導きます。

 ガイド役が道に迷ったり、急にルートを変更するとそれだけ登山者が頂上に着くのが困難になります。支援者は介入プランにそって質問を重層的に組み立て、CLの思考が具体的な解決行動に焦点化されていくよう面接を展開させることが必要になります。

 今回教えていただいた重要なポイントは、質問のカテゴリーと時間軸をぶらさないということです。まずは自分が差を聞こうとしているのか、意味構成を聞こうとしているのか、現在で展開させるのか、未来にするのか、ルートを明確にします。さらにその意図が的確に伝わるようなメッセージにしなければなりません。

 気がつけば今回もあっという間に時間が過ぎていました。やればやるほど奥が深いです。(中)


第6回 2015年6月6日(土) 14:00~16:30 @リプル

 今回の内容は、CLによって生み出されてた解決アイデアを「家族システム」にどう投入するかを学ぶ、「家族システム変容論」です。

 とその前に、加茂先生より、社会生活を支援する支援者側が用いている様々な方法に関して、技法論の整理が必要であるという示唆を受けました。支援者が特権的に正しくメッセージを発したり、クライアントの構成を正確に解析できたりするという幻想から離れ、支援者ができることはクライアントの構成に雑音(ノイズ)を入れることだけだというK.Tommの理論から、支援者はその雑音の入れ方を洗練すべきではないか、つまり技法論として整理すべきではないかということです。

 こんな話をしていたので、本題の家族システムの変容論の解説に入ったのが、終了予定時間の30分前です。司会進行役として反省しています。次回は必ず、家族システムの話をお聞きしたいと思っています。(中)


第5回 2015年5月9日(土) 14:00~17:00 @リプル

 私たちは普段、自分の発することばが、自分が意図した意味で相手にも伝わると思っています。”かわいい”と思ったから「かわいい」と言えば、相手にも「かわいいと言われた」と思ってもらえると思っています。しかしながら、そう単純ではないのが、人のコミュニケーションです。”かわいい”と思わなくても、「かわいい」と言うこともありますし、「かわいい」と言われても、その「かわいい」から別の意味を嗅ぎ取ることもあります。

 同じことが、クライアントと支援者の間で起こりえないと言えるでしょうか?

 今回の読書会では、クライアントーFSW間のコミュニケーションにおいて、FSWの質問メッセージが意図した効果を適切に発揮できる言動で、クライアントに伝えられるか、その方法について理論的な解説を受けました。

 テキストの事例でFSWが使用した循環的質問法による質問は、一つのメッセージで変容枠を確定し、クライアントが変容につながる具体的な行動のアイデアを思いつきやすいような文脈になる働きをしています。FSWは自身の発するメッセージをコントロールし、余計な意味合いを入れ込んで変容力を弱めることのないよう、質問メッセージの純度を高めることがいかに重要か身に染みました。(中)


第4回 2015年4月4日(土) 14:00~16:00 @リプル

「Time Marker(タイムマーカー)」。今回登場した新しいキーワードです。解決を生み出す作業の基点となる特定の出来事を意味します。支援者は解決生成の作業として、クライアントの訴えから選ばれた問題を構成する特定の出来事をマークし、その出来事を構成する行為の連鎖と意味構成を明らかにしていきます。次に解決行為の生成過程に入りますが、その際我々は、この特定の出来事(タイムマーカー)の中で作業することもできるし、その出来事の前後、つまり「その出来事が起こる前」、「その出来事が起こった後」の出来事の構成要素を扱うこともできるという説明でした。解決につながる差異を生み出し、変容過程が展開していくために、タイムマーカーそのものだけでなく、そこを基点に時間的に枠組みを移すことも介入方法として使えることを理解して、支援にあたることが大切ということでした。

 また、問題解決を目的とした言語ゲームという観点から、支援過程が段階的に説明され、「実在」ということばが人にもたらすイメージの違いから、理解を深めるディスカッションができました。(中)


第3回 2015年3月7日(土) 14:00~16:00 @リプル

「単純なメッセージであって、計算されているのが好きやな」。これは講師の加茂先生のお言葉です。単純な言葉ですが、内容は大変厳しいものです。

 面接場面では、問題に対する記述や、解決に対する意見や考えを、クライアントから引き出すよう、支援者は努めています。しかしながら、時には自分の考えや解決のアイデアを伝えたり、計算せずに質問をして情報だけを集めたりすることがあります。そういう時の逐語録を読むと、自分のおしゃべりに愕然とすることがあります。クライアントへの質問が長い文章になるというのは、支援者の介入プランが組みたっておらず、わけがわからなくなっていることでもあります。

 介入のプランに即した質問を、的確な表現でクライアントに発する。つまり、単純なメッセージだけど、きっちり計算されていて、効果的に機能する、そんな質問の組み立て方ができるように「なりたいね~」ということで今回は終了しました。(中)


第2回 2015年2月7日(土) 14:00~16:00 @リプル

 一段と厳しい寒さにもかかわらず、今回も様々な領域・現場から多くの皆様がファミリー・ソーシャルワークを学びにお集まりくださいました。

 加茂先生の講義から始まった今回の読書会ですが、参加者からの質問をきっかけに、ロールプレイが始まりました。質問者がクライアント役に、加茂先生がワーカー役になり、どのような質問の組み立てが、クライアントの新たな行動や意味づけを生み出す仕掛けとなって働くのか、その実際を私たちはかたずをのんで見守りました。

 理論や技法の解説を聞き、理屈の部分の理解を深めることも大切ですが、それを実際にやるとどうなるのかを目の当たりにすることで、より納得もいくと思います。命題文的記述の押さえ方や、クライアントの記述を文脈として用いる方法など、意識していきたいと思いました。


第1回 2015年1月10日(土)14:00~16:00 @リプル

 「じゃあ、トラッキングはしないということですか?」「そうやな、トラッキングはうまくない方法やな」「えー!」

 会場に衝撃が走りました。今日は連続読書会の第一回。テキストは『ファミリー・ソーシャルワークの理論と技法』、講師は加茂陽先生、となれば、最新理論について専門的に学べること間違いなし!と思っていましたが、まさかトラッキングが古いものになるとは…。ようやく訴えを具体的な行為連鎖と意味構成という現実構成要素に分解できるようにはなれたと思っていたのに…。

 では、より洗練度の高い新しい方法とはどのようなものなのでしょうか?それは、各種の質問を効果的に用い、クライアントに命題文的記述と語用論的記述を求め、その間に積み重ねられるリフレクションにより、クライアントが自ら解決的行動を見出すよう介入するというものです。

 これは、なかなかに難解です。できるようになるのだろうか…?そんな不安のよぎるスタートとなりましたが、後半、参加者同士「記号はどうでもいいよね」「まずは”何があった”系で聞いて行けばいいよね」と実際に使う際の方法について話し合えて、少し安心できました。

 道のりは長いですが、問題状況に変容を起こすために次回も学びたいと思います。(中)